Steamでゲームを販売している日本のゲーム開発会社には、Valveから米ドルで売上代金等が送金されます。
Steamworksによると、米国外のパートナーに対する支払いは米ドルによるSWIFT送金で行われ、日本円による支払いは行われていません。
そのため、日本のゲーム会社では、
Steamの収益を計上したとき
↓
Valveから米ドルが入金されたとき
↓
外貨預金の米ドルを日本円に交換したとき
という各時点の為替相場が異なることがあります。
この差額が「為替差益」または「為替差損」です。
本ページでは、日本法人がSteamから米ドルで支払いを受ける場合の、法人税・消費税上の外貨換算と為替差損益の経理処理について説明します。
4 Valveから10,000ドルが外貨預金に入金された場合
Steamから米ドルで支払いを受ける場合の基本的な処理は次のとおりです。
| 項目 | 取扱い |
| Steamの米ドル建収益 | 継続適用を前提として、収益計上日の電信買相場(TTB)で円換算し、売掛金計上 |
| Valveから米ドルが入金された場合 | 売掛金の帳簿価額との差額を為替差益・為替差損として処理 |
| 米ドルを外貨預金で保有 | 外貨預金として管理 |
| 外貨預金を後日円転 | 外貨預金の帳簿価額と実際の円転額との差額を為替差損益として処理 |
| 為替差益 | 法人の利益として処理 |
| 為替差損 | 法人の損失として処理 |
| 為替差損益の消費税 | 課税売上げ・課税仕入れにはしない |
| 為替変動後のSteam売上 | 消費税上、当初の売上金額を修正しない |
法人税基本通達13の2-1-2では、外貨建取引の円換算について、継続適用を条件として、売上その他の収益または資産について取引日の電信買相場(TTB)を使用することが認められています。
本ページでは、この取扱いを継続して適用する日本法人を前提として、TTBによる経理処理に統一して説明します。
1 Steamから日本法人への支払いは米ドル
Steamworksでは、米国外の銀行への支払いはUSDによるSWIFT送金で行われると説明されています。
Valveは現地通貨による支払いを行っていないため、日本のゲーム会社についても、Valveからの支払通貨は米ドルとなります。
したがって、日本法人では、
米ドルをそのまま外貨預金口座で受け取る場合
と、
銀行で日本円に交換されて円預金口座へ入金される場合
があります。
この違いによって、為替差損益が発生するタイミングも変わってきます。
2 Steamの米ドル建収益は取引日のTTBで円換算
法人税基本通達13の2-1-2では、外貨建取引の円換算について、原則的な換算方法を定めたうえで、継続適用を条件として、
売上その他の収益または資産については、取引日の電信買相場(TTB)
によることが認められています。
TTB(Telegraphic Transfer Buying Rate・電信買相場)とは、金融機関が外貨を買い取って円貨を支払う場合に用いる為替相場です。
本ページでは、日本法人がこのTTBによる換算方法を継続して適用しているものとして説明します。
したがって、
Valveから実際に入金された日のTTBによって、初めて売上を計上する
のではありません。
まず、収益を計上すべき日に、その日のTTBによって米ドル建収益を円換算します。
その後、Valveから代金が入金されるまでに為替相場が変動すれば、売掛金の帳簿価額との差額が為替差損益となります。
3 具体例―10,000ドルの収益を計上する場合
日本法人が6月30日にSteamについて10,000ドルの収益を計上するものとします。
6月30日のTTBを、
1ドル=160円
とします。
円換算額は、
10,000ドル × 160円 = 1,600,000円
です。
仕訳のイメージは次のようになります。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
| 売掛金 | 1,600,000円 | 売上 | 1,600,000円 |
ここで重要なのは、
10,000ドルという外貨額は変わらなくても、日本法人の帳簿では1,600,000円という円貨額で記録される
という点です。
その後、Valveから入金される日のTTBが変動していれば、為替差損益が発生します。
4 Valveから10,000ドルが外貨預金に入金された場合
その後、円安が進み、Valveから10,000ドルが日本法人の米ドル建外貨預金へ入金されたとします。
入金日のTTBが、
1ドル=165円
であったとします。
入金された10,000ドルの円換算額は、
10,000ドル × 165円 = 1,650,000円
です。
一方、売掛金は1,600,000円で計上されています。
したがって、
1,650,000円 − 1,600,000円 = 50,000円
の為替差益が生じます。
仕訳のイメージは次のとおりです。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
| 外貨預金 | 1,650,000円 | 売掛金 | 1,600,000円 |
| 為替差益 | 50,000円 |
この50,000円は、Steamのゲーム販売による追加の売上ではありません。
収益を計上した後、Valveから代金を受け取るまでに為替相場が変動したことによって発生した利益です。
5 入金後も米ドルのまま保有した場合
Valveから10,000ドルが入金されても、すぐに日本円へ交換せず、外貨預金にそのまま保有するゲーム会社もあります。
先ほどの例では、外貨預金の帳簿価額は1,650,000円です。
その後、10,000ドルを日本円に交換するまでに為替相場が動けば、さらに為替差損益が発生します。
例えば、その後さらに円安が進み、円転時のレートが1ドル=170円となり、10,000ドルを円転した際、銀行から実際に、
1,700,000円
を受け取ったとします。
外貨預金の帳簿価額は1,650,000円ですから、
1,700,000円 − 1,650,000円 = 50,000円
の為替差益となります。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
| 普通預金 | 1,700,000円 | 外貨預金 | 1,650,000円 |
| 為替差益 | 50,000円 |
この例では、
収益計上からValve入金まで
50,000円
Valve入金から円転まで
50,000円
合計
100,000円
の為替差益が生じています。
ただし、途中で事業年度末を迎えて外貨預金について期末換算を行っている場合には、円転時には期末換算後の帳簿価額を基礎として差額を計算します。
6 円高になれば為替差損になる
収益計上時の1ドル=160円から円高が進めば、為替差損が発生します。
別のケースとして、6月30日に10,000ドルの収益を1ドル=160円で計上し、その後、Valveからの入金日のTTBが、
1ドル=155円
になったとします。
この場合、入金された10,000ドルの円換算額は、
10,000ドル × 155円 = 1,550,000円
です。売掛金の帳簿価額1,600,000円との差額50,000円が為替差損となります。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
| 外貨預金 | 1,550,000円 | 売掛金 | 1,600,000円 |
| 為替差損 | 50,000円 |
この50,000円も、Steamの売上を減額するものではありません。
売上等とは別に、「為替差損」として処理します。
7 日本円の預金口座へ直接入金された場合
Valveからの米ドル送金を外貨預金で受け取らず、銀行が円に交換したうえで日本円の普通預金へ入金する場合もあります。
収益計上時の1ドル=160円から円安が進み、円換算時に1ドル=165円となったケースを考えます。
例えば、
売掛金の帳簿価額
1,600,000円
実際の円預金への入金額
1,650,000円
であれば、銀行手数料等がないものとすると、
50,000円
の為替差益となります。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
| 普通預金 | 1,650,000円 | 売掛金 | 1,600,000円 |
| 為替差益 | 50,000円 |
外貨預金を経由していませんので、その後に外貨預金を円転する際の二段階目の為替差損益は発生しません。
8 為替差益・為替差損は消費税の課税対象にならない
Steamから外貨で支払いを受けるゲーム会社にとって、特に重要なのが消費税です。
国税庁は、外貨建取引について、売上等を計上した日と実際に円貨で決済した日の為替レートの差によって為替差損益が発生しても、
消費税上、当初の資産の譲渡等の金額や課税仕入れの金額を調整する必要はない
と明示しています。
さらに、為替差損益そのものについても、
資産の譲渡等の対価または課税仕入れに係る支払対価には当たらない
とされています。
したがって、
為替差益が50,000円発生したので50,000円を課税売上げに加える
という処理はしません。
反対に、
為替差損が50,000円発生したのでSteamの課税売上げを50,000円減額する
という処理もしません。
為替差損益は、元となったSteam取引とは別に処理します。
9 為替差益は「非課税売上高」に加えるものではない
消費税の処理では、
「法令上の非課税取引」
と、
「そもそも資産の譲渡等の対価ではないもの」
を区別する必要があります。
為替差損益は、後者です。
国税庁も、為替差損益は資産の譲渡等の対価または課税仕入れの支払対価に当たらないとしています。
したがって、会計ソフトでは通常、
「対象外」
などの消費税区分を使用し、課税売上や法定非課税売上として処理しないことになります。
具体的な消費税区分の名称は、使用している会計ソフトによって異なります。
10 消費税でもTTBによる換算ができる
消費税における外貨建取引の円換算は、法人の場合、法人税の課税所得計算で円換算して計上する金額によることとされています。
国税庁の質疑応答事例でも、
継続適用を条件として、資産の譲渡等の対価について計上日のTTBにより円換算することが認められる
と明示されています。
したがって、本ページのように法人税について継続してTTBを使用しているゲーム会社では、消費税についても同じ円換算額を基礎とすることができます。
例えば、
10,000ドル
×
収益計上日のTTB 160円
=
1,600,000円
として収益を計上したのであれば、元となる取引について消費税の判定が必要な場合にも、この円換算額を基礎として処理します。
その後、円安が進み、実際の円貨受取額が1,650,000円になったとしても、為替差益50,000円を加えて1,650,000円に修正するものではありません。
11 Steam売上自体の消費税区分と為替差損益は別問題
Steamから受け取る収益は、輸出免税の対象となりますが、為替差損益の消費税処理は別の問題です。
為替相場の変動によって発生した為替差損益自体を、Steam売上に加算・減算するものではありません。
この点は、Steam売上を外貨で受け取る場合の経理で混同しないことが重要です。
12 銀行手数料と為替差損を混同しない
Valveから送金された金額と、実際に銀行口座へ入金された金額が一致しない場合があります。
しかし、その差額がすべて為替差損とは限りません。
Steamworksでは、Valve自身は月次Steam Sales Reportに記載されたTotal Revenue Shareを支払い、Valveからパートナーへ送金手数料を転嫁してはいないものの、中継銀行や受取銀行が銀行手数料を徴収する可能性があると説明されています。
したがって、
為替相場の変動による差額
と、
銀行・中継銀行が徴収した手数料
は分けて経理する必要があります。
例えば銀行手数料5,000円が差し引かれているのであれば、その5,000円まで為替差損として処理するのではなく、銀行資料を確認したうえで「支払手数料」等として区分します。
銀行手数料の消費税区分については、どの金融機関がどのような役務について徴収したものかによって確認する必要があります。
13 決算日に米ドルを外貨預金として保有している場合
Valveから受け取った米ドルを円転せず、事業年度末まで外貨預金として保有している場合には、外貨建資産等の期末換算も確認する必要があります。
法人が期末時換算法によって外貨建資産等を円換算する場合、法人税基本通達13の2-2-5では事業年度終了日の為替相場によることとされています。
そして、継続適用を条件として、外貨建資産については期末日のTTBを使用することも認められています。
したがって、事業年度末に外貨預金が残っている会社では、
その外貨預金に適用される期末換算方法
を確認して処理する必要があります。
期末換算によって帳簿価額との差額が生じれば、その換算差額について法人税上の為替差損益の処理が必要となります。
国税庁も、外貨建資産等について本来採用すべき方法による期末換算をしていない場合には、正しい換算額と帳簿価額との差額を益金または損金に算入する取扱いを示しています。
14 使用するTTBは継続して同じ方法で取得する
法人税基本通達13の2-1-2では、電信買相場等について、原則として法人の主たる取引金融機関のものを使用するとされています。
ただし、
同一の方法で入手した合理的な為替相場を継続して使用している場合
には、その方法も認められていますので、
どの金融機関・情報源のTTBを使用するか
を決め、継続して使用することが重要です。
15 毎日のTTBを使用しなければならないとは限らない
法人税基本通達では、継続適用を条件として、取引日そのもののTTB以外にも一定の簡便的な為替相場を使用することが認められています。
例えば、
- 取引日の属する月の前月末日のTTB
- 当月初日のTTB
- 前月の平均TTB
- その他1か月以内の一定期間の平均TTB
などです。
したがって、Steamの取引件数が多いゲーム会社が毎日個別の為替相場を取得しなければならないとは限りません。
ただし、簡便的な方法を採用する場合にも、継続適用が前提です。
本ページの具体例では説明を分かりやすくするため、取引日のTTBを直接使用しています。
16 Steamからドルで入金された場合の経理の流れ
日本法人がSteamから米ドルで支払いを受ける場合は、基本的に次の順番で考えると分かりやすくなります。
① Steamについて収益計上すべき米ドル額を確定する
↓
② 収益計上日のTTBで円換算する
↓
③ 米ドル建の売掛金を計上する
↓
④ Valveから米ドルが入金される
↓
⑤ 売掛金の帳簿価額と入金時の円換算額との差額を為替差損益として処理する
↓
⑥ 米ドルを外貨預金として保有する
↓
⑦ 後日円転した場合、外貨預金の帳簿価額と実際の円貨受取額との差額を為替差損益として処理する
↓
⑧ 決算日まで米ドルを保有している場合は、適用する期末換算方法を確認する
という流れになります。
Q1 Steamからドルが入金され、為替差益が発生しました。消費税10%ですか?
いいえ。
為替差益は、消費税上の資産の譲渡等の対価ではありません。
したがって、為替差益について10%の消費税を計算して課税売上げに加算するものではありません。
Q2 為替差損が発生した場合、Steamの売上を減額しますか?
減額しません。
外貨建取引について、売上等を計上した日の為替相場と実際の決済時の為替相場との差から生じた為替差損益について、国税庁は消費税上、当初の資産の譲渡等の金額を調整する必要はないとしています。
為替差損は売上の減額ではなく、為替差損として別に処理します。
Q3 収益計上日の為替レートはTTMですか、TTBですか?
本ページでは、継続適用を前提としてTTBを使用します。
法人税基本通達13の2-1-2では、外貨建取引の原則的な円換算方法を定めていますが、継続適用を条件として、売上その他の収益または資産について取引日のTTBによることを認めています。
日本法人がこの方法を採用している場合、Steamの米ドル建収益もTTBによって円換算します。
Q4 消費税だけTTMで計算し直す必要がありますか?
必要ありません。
消費税についても、外貨建ての資産の譲渡等について、継続適用を条件として計上日のTTBによることが認められています。
法人税について継続してTTBを使用している場合には、消費税についてもその円換算額を基礎として処理できます。
Q5 Steamからドルが外貨預金に入り、そのまま保有しています。
Valveから入金された時点で売掛金を消し込み、その後は外貨預金として管理します。
さらに、事業年度末まで米ドルを保有している場合には、その外貨預金について適用される期末換算方法を確認します。
期末時換算法を適用する外貨建資産については、継続適用を条件として期末日のTTBによる換算も認められています。
Q6 Steamから送金された金額より銀行入金が少ないのですが、全部為替差損ですか?
そうとは限りません。
中継銀行や受取銀行の手数料が差し引かれている可能性があります。
Steamworksでも、中継銀行や受取銀行によって手数料が徴収される場合があることを説明しています。
銀行の入金明細等を確認して、
銀行手数料
と
為替差損益
を区別して処理してください。
Steamから米ドルで支払いを受ける日本法人では、ゲームの売上等とは別に為替差益・為替差損が発生します。
本ページでは、法人税基本通達13の2-1-2に基づき、継続適用を前提として、Steamの米ドル建収益を収益計上日の電信買相場(TTB)で円換算する方法を採用しています。
その後、
収益計上からValve入金まで
および
Valve入金後から日本円への円転まで
の為替変動によって為替差損益が発生することがあります。
法人税では、この為替差損益を法人の損益として処理します。
一方、消費税については、
為替差益・為替差損そのものは、資産の譲渡等の対価や課税仕入れの支払対価には該当しません。
したがって、
為替差益を課税売上げに加算しない
為替差損をSteam売上から減額しない
為替差損益が発生しても、当初の消費税上の取引金額を修正しない
という点が重要です。
Steamからドルで入金を受けるゲーム会社では、
Steamに係る収益
米ドル建売掛金
外貨預金
為替差益・為替差損
銀行手数料
をそれぞれ区分して経理することが重要です。
- 国税庁「法人税基本通達13の2-1-2 外貨建取引及び発生時換算法の円換算」
- 国税庁「外貨建取引の課税標準」
- 国税庁「No.6325 外貨建取引の取扱い」
- 国税庁「法人税基本通達13の2-2-5 期末時換算法-事業年度終了の時における為替相場」
- Steamworks Documentation「Reporting and Payments FAQ」
※本ページは、日本法人であるゲーム開発会社・ゲームパブリッシャーがSteam(Valve)から米ドルで支払いを受ける場合の外貨換算・為替差損益・消費税について説明しています。
