ゲーム会社が海外のクリエーターに支払う外注費は著作権使用料になる?

国税不服審判所の裁決から見る著作権使用料の判断基準

このページの結論
 「開発費」、「制作費」、「業務委託費」という名称だけでは、税務上の区分は決まりません。
 国税不服審判所(国税庁の機関)は、契約の目的・内容を確認し、「その契約の本体をなす合意」が何かを認定して判断しています。
  実務上は、①創作性、②誰が著作権を原始取得するか、③日本のゲーム会社がどのような権利を得るか、④役務対価と権利対価を合理的に区分できるか、の順で確認するのが有効です。

目次

1 まず押さえるべき結論

2 審判所が示した基本的な判断方法

3 裁決①:業務対価と著作権譲渡対価の区分を認めた事例

4 裁決②:ゲームソフト開発費を著作権対価とした事例

5 裁決③:開発費を著作権使用料とした事例

6 3件の裁決から抽出できる4段階の判断基準

7 著作権使用料・譲渡対価と判断される方向の事情

8 業務委託費として区分できる方向の事情

9 ゲーム会社の具体例

10 契約書で確認したい5項目

11 著作権使用料等に該当した場合の税務

12 実務チェックリスト

13 まとめ

14 参考資料・注意事項

1 まず押さえるべき結論

 日本のゲーム会社が海外のクリエイターや海外のゲーム開発会社へ、プログラム、イラスト、音楽、シナリオ、ゲームソフト等の制作を依頼する場合、その支払を単純に「外注費」、「業務委託費」と処理できるとは限りません。

 契約内容によっては、その支払の全部又は一部が、所得税法上の「著作権の使用料又は譲渡による対価」に該当する可能性があります。

 反対に、契約に著作権の譲渡条項が含まれていても、制作作業の対価と著作権の対価が合理的に区分されている場合には、契約金額の全額を著作権の対価とみることが否定された裁決もあります。

重要な視点
 「著作権条項があるか」だけを見るのではなく、「その支払によって日本のゲーム会社が実際に何を取得するのか」を見る。
 契約の名称よりも、契約の目的・内容・権利関係・対価設定の実態が重要。

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2 審判所が示した基本的な判断方法

 平成21年12月11日の公表裁決では、著作権の使用料又は譲渡対価に当たるかどうかについて、契約上の名目だけではなく、契約の目的や内容から契約意思を合理的に解釈し、その「本体をなす合意」を認定して判断すべきであるという考え方が示されています。

 この考え方をゲーム会社の実務に置き換えると、次の4段階で整理できます。

  1. 成果物に著作物としての創作性があるか。
  2. その著作物を創作し、著作権を原始的に取得するのは誰か。
  3. 日本のゲーム会社は著作権の譲渡、使用許諾、共有持分、再許諾権など、どのような権利を取得するのか。
  4. 契約の中心が制作作業なのか、権利取得・利用許諾なのか。
  5. 両方なら対価を合理的に区分できるか。

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3 裁決①:業務対価と著作権譲渡対価の区分を認めた事例

平成21年6月26日裁決(東裁(諸)平20-209・課税処分を全部取消し)

 原処分庁(税務署)は、海外子会社が成果物を制作し、その成果物に係る二次的著作物の著作権が海外子会社から日本側へ移転する以上、委託料の全額が著作権の譲渡対価であると主張しました。

 これに対し審判所は、対象業務は基本的には創作性があるとは認められない一方、業務の過程でプログラム等に何らかの創意が加えられる可能性を想定して、個別契約書で通常の業務対価とは別に二次的著作物の著作権譲渡対価を800万円と定めたことには一応の合理性があり、不相当とする理由はないと判断しました。

 その結果、著作権譲渡対価として合意された部分を除く金額は作業の対価であり、委託料全額を著作権の譲渡対価とする原処分庁の主張は採用されませんでした。

この裁決から読み取れるポイント
 著作権の移転が含まれていても、直ちに契約金額の全額が著作権の対価になるわけではない。
 制作・作業の対価と著作権の対価を分ける場合、その金額設定に合理性があるかが重要。
  形式的に少額の著作権対価を置くだけではなく、業務内容や支払価値との関係を説明できることが望ましい。

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4 裁決②:ゲームソフト開発費を著作権対価とした事例

平成21年12月11日裁決(裁決事例集No.78・208頁、東裁(諸)平21-76・課税処分を支持)

 この事例では、日本法人が海外法人にゲームソフトの開発を委託し、「開発委託費」として支払った金額が問題になりました。

 審判所は、海外法人がシナリオ、プログラム、キャラクター・背景等のグラフィック、ムービー、効果音、BGMなどを具体的に制作しており、海外法人が著作者として著作権を原始的に取得したと認定しました。

 さらに、日本側がゲームソフトを日本国内で適法に複製・販売するためには、海外法人から著作権の共有持分の譲渡を受け、海外法人が保有する持分について使用許諾を受けることが必要でした。

 そのため審判所は、契約の本体をなす合意は、著作権の共有持分の譲渡と、海外法人側の持分についての日本国内での使用許諾であると判断し、「開発委託費」という名称にかかわらず、著作権の使用料又は譲渡の対価に該当するとしました。

ゲーム会社にとって特に重要な点
 日本側が細かな制作指示をしていても、それだけで日本側が著作者になるとは限らない。
 海外側が実際の創作行為を担い、日本のゲーム会社が販売・複製のための権利を取得する構造では、著作権対価としての性格が強くなる。
 「開発をしてもらうこと」と「完成したゲームを適法に商業利用できる権利を得ること」が一体化している契約は要注意。

【公表裁決】国税不服審判所:平成21年12月11日裁決(裁決事例集No.78 208頁)

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5 裁決③:開発費を著作権使用料とした事例

平成22年2月3日裁決(東裁(諸)平21-114・課税処分を支持)

 この事例でも、外国法人に支払ったゲームソフトの開発費について、開発作業そのものの対価なのか、著作権の使用料なのかが争われました。

 契約では、日本側が外国法人にゲームソフトを開発させるとともに、その著作権の使用許諾を受け、日本側の子会社に対して複製等を再実施許諾できる仕組みとなっていました。

 審判所は、この契約の目的を達成するための本体をなす合意は、日本側が外国法人から著作権の使用許諾(再実施許諾を含む)を受けることにあると評価し、開発費は著作権の使用料として国内源泉所得に該当すると判断しました。

この裁決から読み取れるポイント
 「開発費」として分割払いされていても、実質がライセンス取得の対価なら使用料になり得る。
  日本のゲーム会社自身の利用だけでなく、子会社や第三者への再許諾が予定されている場合は、権利取得の重要性がより明確になる。

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6 3件の裁決から抽出できる4段階の判断基準

段階確認事項見るべきポイント
STEP 1成果物に創作性があるか単純作業・機械的作業か、プログラム・イラスト・音楽・シナリオなど創作性を伴う成果物か。
STEP 2誰が著作権を原始取得するか実際に思想・感情を創作的に表現した主体は誰か。 日本側の指示だけで当然に日本側の著作権になるとは限らない。
STEP 3日本のゲーム会社は何の権利を得るか著作権譲渡、共有持分、複製・配信・販売・翻案・再許諾などの利用権が含まれるか。
STEP 4契約の本体と対価区分制作作業が中心か、権利取得・使用許諾が中心か。 両者がある場合は合理的に金額を分けられるか。

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7 著作権使用料・譲渡対価と判断される方向の事情

 次の事情は、著作権の取得・利用が契約の中心であると評価する方向に働きやすい要素です。

 単独の要素だけで結論が決まるものではなく、契約全体を総合して判断します。

  • 海外クリエイター側が、プログラム、イラスト、音楽、シナリオ等を創作する。
  • 海外側が既に保有する原著作物やキャラクター等を基礎として制作する。
  • 日本のゲーム会社が著作権そのもの又は共有持分を取得する。
  • 日本のゲーム会社に独占的又はそれに近い利用権が与えられる。
  • 複製、販売、配信、翻案、広告利用、二次利用等の権利を取得する。
  • 子会社や第三者への再許諾が認められている。
  • その権利を取得しなければ予定するゲーム販売・配信を適法に行えない。
  • 制作費と著作権対価が区分されておらず、権利取得と制作が一体の契約になっている。

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8 業務委託費として区分できる方向の事情

 反対に、次のような事情は、制作作業そのものの対価を著作権の対価と区分する方向の材料になります。

  • 作業内容が具体的に定められ、工数・人数・作業量などを基礎に報酬が算定されている。
  • 創作性の乏しい作業又は補助的な作業が中心である。
  • 制作業務の対価と著作権譲渡・使用許諾の対価が契約上明確に区分されている。
  • 著作権部分の対価について、金額設定の合理的な根拠を説明できる。
  • 著作権の移転が付随的であり、契約の主目的が明確に作業の遂行・成果物の制作にある。

 ただし、契約書上だけ形式的に金額を分ければ足りるという意味ではありません。

 裁決①で区分が認められたのは、その著作権譲渡対価の設定について「一応の合理性」が認められたためです。

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9 ゲーム会社の具体例

9-1 海外イラストレーターへキャラクターイラストを発注する場合

 「イラスト1点○万円」という発注でも、それだけで業務委託費と決まるわけではありません。

 日本のゲーム会社が、ゲームへの組込み、広告、パッケージ、グッズ、翻案、世界各国での配信など広い利用権を取得する場合には、著作権の譲渡又は使用許諾の対価が含まれていないかを確認する必要があります。

 平成21年12月11日裁決では、ゲームソフトの広告・パッケージ等に使用されたイラストについても、海外法人が著作権を原始取得し、日本側が実際に複製利用していたことなどから、制作費が著作権の使用料又は譲渡対価に該当すると判断されています。

9-2 海外プログラマー・開発会社へプログラム開発を依頼する場合

 日本のゲーム会社が仕様書や詳細な指示を出していることだけで、当然に日本のゲーム会社が著作者になるとは限りません。

 平成21年12月11日裁決でも、日本側は商品化のための指示を行っていましたが、シナリオ、プログラム、グラフィック等を具体的に制作した海外法人が著作者として著作権を原始取得したと認定されています。

 「当社の指示どおり作ってもらった」という事実だけで源泉徴収の問題がなくなるわけではありません。

9-3 海外側の既存作品・既存IPを利用する場合

 海外ゲームの日本向け版を開発する、既存キャラクターを利用する、既存音楽をゲームへ組み込む、既存ソフトを基礎として新しいゲームを制作するといった契約では、海外側が既に原著作権を保有しています。

 日本のゲーム会社がその著作物を利用するための権利取得が契約目的の中心になりやすいため、著作権使用料等の論点がより明確になります。

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10 契約書で確認したい5項目

① 業務内容 

 何を制作・作業してもらう契約なのか。

 単純作業か、創作性のある制作か。

② 成果物 

 プログラム、イラスト、音楽、シナリオ、動画等、著作物となり得る成果物が含まれているか。

③ 著作権の帰属 

 制作された著作物について、誰が著作権を原始取得し、その後誰に帰属する契約なのか。

④ 日本のゲーム会社の利用権 

 複製、販売、配信、翻案、広告利用、二次利用、第三者への再許諾等がどこまで認められているか。

⑤ 対価 

 制作作業の対価と著作権の譲渡・使用許諾の対価が区分されているか。

 その区分に合理的根拠があるか。

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11 著作権使用料等に該当した場合の税務

 裁決当時は所得税法第161条第7号ロが問題となっていましたが、現行法では、著作権(出版権・著作隣接権等を含む)の使用料又はその譲渡による対価は所得税法第161条第1項第11号ロに規定されています。

 非居住者又は外国法人に支払う著作権等の使用料等について、国内法上の源泉徴収税率は原則20.42%です。

 ただし、実際の課税関係は相手国との租税条約によって軽減・免除される場合があります。

 したがって実務では、①支払の性質を判定する、②相手方の居住地国との租税条約を確認する、③必要な場合には租税条約の届出等を検討する、という順序で確認します。

【国税庁資料】非居住者等に対する源泉徴収・源泉徴収の税率(No.2884)

       納付書の記載のしかた(所得税法第161条第1項第11号ロ)

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12 実務チェックリスト

 海外クリエイター等へ支払う前に、次の項目を確認してください。

 「はい」が多いほど、著作権の使用料又は譲渡対価としての検討が重要になります。

□ 海外側がプログラム・イラスト・音楽・シナリオ等を創作する。

□ 海外側が既存の著作権を保有している。

□ 日本のゲーム会社へ著作権又は共有持分を譲渡する契約になっている。

□ 日本のゲーム会社が作品を複製・販売・配信できる。

□ 翻案、改変、広告利用、グッズ化などの二次利用が認められる。

□ 子会社・パブリッシャー等への再許諾が認められる。

□ 日本のゲーム会社に独占的又はそれに近い利用権が与えられる。

□ その権利を取得しなければゲームを予定どおり販売・配信できない。

□ 制作費と著作権対価が区分されていない。

※ 一つ該当しただけで直ちに著作権使用料等になるわけではありません。

 契約の目的・内容を全体として確認する必要があります。

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13 まとめ

 審判所の裁決から見ると、海外クリエイターへの支払を判定するときに重要なのは、請求書や契約書に書かれた「開発費」、「制作費」、「業務委託費」という名称ではありません。

 最も重要なのは、その契約によって日本のゲーム会社が実際に何を取得するのか、そして契約の本体をなす合意が制作作業なのか、著作権の取得・利用許諾なのかを確認することです。

 制作作業と著作権移転の両方が含まれる場合には、それぞれの対価を合理的に区分できるかも重要になります。

 海外で作業してもらったという事実だけで「日本の源泉徴収は関係ない」と判断せず、著作権の取得・使用許諾が支払の中に含まれていないかを契約書から確認する必要があります。

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14 参考資料・注意事項

参考資料

 上記のほか、本稿では国税不服審判所の裁決要旨である平成21年6月26日 東裁(諸)平20-209、平成22年2月3日 東裁(諸)平21-114を参照しています。

ご注意

 本稿は、国税不服審判所の裁決等を基に、海外クリエイター等への支払について源泉所得税上の考え方を整理した一般的な情報です。

 著作権の帰属、著作権譲渡契約その他の契約内容についての法的判断そのものを行うものではありません。

 著作権法上の権利帰属等に法的な疑義がある場合は、弁護士等の専門家への確認が必要となることがあります。

 実際の源泉徴収の要否は、契約内容、成果物、権利関係、利用方法、相手方の居住地国、租税条約等によって異なります。

 個別取引は実際の契約書等を確認した上で判断する必要があります。

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